日いづる処の美の日誌

光梅|美しいものを慈しむくらしの記録

【静嘉堂@丸の内】『元禄!師宣劇場 十二ヶ月風俗図巻 大公開』鑑賞レポ|《見返り美人図》・《歌舞伎図屏風》は必見!

静嘉堂@丸の内で開催された『元禄!師宣劇場 十二ヶ月風俗図巻 大公開』の前期展示を鑑賞してきました。

今回の展示では、菱川師宣(ひしかわ もろのぶ)の代表作として知られる《見返り美人図》をはじめ、重要文化財《歌舞伎図屏風》や《十二ヶ月風俗図巻》など、江戸の人々の暮らしや楽しみを描いた作品を見ることができた。

ところで、なぜ菱川師宣は「浮世絵の祖」と呼ばれるのだろうか。

師宣より前から、当時の人々の暮らしや風俗を描いた絵はあったそうだ。調べてみると、大きく三つの理由があるらしい。

一つ目は、絵を「見るもの」として広げたこと。
元々は本の挿絵として描かれることが多かった絵を、一つの作品として楽しむものへ発展させた。

二つ目は、木版印刷によって、より多くの人が楽しめるものにしたこと。つまり、気軽に買える大衆向けの文化にしたとのことだ。

そして三つ目。
それまで絵師の名前が前面に出ることは少なかった。けれど、師宣は自分の名前を入れ、絵師自身にも価値を持たせた。

というわけで、作品だけではなく、「誰が描いたのか」ということにも注目されるようになったのだ。そんなことも、師宣の大きな功績の一つなのだそうだ。

では、
まずは初めて訪れる、静嘉堂@丸の内までの道のりから。

私はいつも通り一人で、JR山手線・京浜東北線「有楽町駅」の国際フォーラム口から歩いて向かった。

赤レンガの三菱一号館美術館の並びにあり、正面には遠く皇居の伏見櫓が見える。

「すごい。一等地じゃない!」と思わず小さく叫んだ。

今回の会場は「静嘉堂@丸の内」。
2022年、静嘉堂文庫美術館は展示ギャラリーを世田谷から丸の内・明治生命館へ移転した。皇居にもほど近いこの場所で、名品を鑑賞できるようになった。

白い花崗岩の外壁に、古代ギリシャ・ローマ建築を思わせる重厚な明治生命館の中にある。

「重要文化財」のプレートにも頷ける。

館内に入ると、右手に静嘉堂@丸の内の入口があった。
お昼時だったこともあり、館内はまだ落ち着いた雰囲気だった。

大理石やブロンズをふんだんに用いた内装に、トーンを抑えたシックな照明。重厚で気品あふれる空間が広がり、その豪華さに思わず気おくれしてしまいそう。

かくいう私は、シャツにパンツ、スニーカーといういつもの格好。
こんなにも品格のある場所なら、少しばかりお洒落をして来ればよかった…と後悔した。

展示室へ向かう前に、まずはホワイエへ。

天井が高く、落ち着いた雰囲気。

正面には、《見返り美人図》をモチーフにした展示があり、一気に心がはやる。

黄金の装飾と深い赤褐色の着物とのコントラストが、江戸の華やかさを感じさせる。

さぁ、いよいよ菱川師宣(ひしかわもろのぶ)の世界へ。

Gallery1

まず目に飛び込んできたのは、静嘉堂を代表する所蔵品の一つ、重要文化財《四条河原遊楽図屏風》だ。

画面いっぱいに広がるのは、京都の繁華街・四条河原で遊び、集う人々のにぎわいだ。誰もが生き生きとした表情を見せている。

目を凝らして見ると、着物の柄や色使いが、斬新でありながら驚くほど繊細だ。江戸時代の京都の人々の流行だったのだろうか。そして、人々の暮らしを描いた作品とは思えないほど、黄金の霞は豪華で煌びやかだ。

この金をふんだんに使った演出は、京都の人々の華やかな遊びやにぎわいを表現したかったのだろうか。それとも、発注した富裕層が楽しむための華やかな屏風だったのだろうか。

次へ進むと、出ましたぁ、《見返り美人図》

平日ということもあって、それほど混雑はしていない。
けれど、一幅の掛軸の前には、常に二、三人が足を止めていた。
想像していたより、小ぶりな作品だった。

この作品の最大の見どころは、歩きながらふっと「振り返る」という、その一瞬の仕草だそうだ。

有名な美人画なので私は前から知っていたけれど、『あつまれ どうぶつの森』というゲームがきっかけで《見返り美人図》を知ったという人も、多いのではないだろうか。

このゲームには、怪しいキツネの美術商「つねきち」がやって来て、本物と偽物の美術品を売るイベントがあるのだ。

ゲーム内の博物館に美術品を寄贈するため、つねきちの薄暗い船のなかで「本物か? 偽物か?」と見比べていたら、自然と作品名まで覚えてしまう。しかも有名な作品ばかり登場するから、いつの間にか美術の勉強にもなっている。なかなかよいゲームだ。そう感じたのは、私だけではないはず。(笑)

(また、話がそれてしまった。)

そして、その並びには、尾形光琳の《鵜舟図(うぶねず)》。

かがり火を灯した鵜舟が、墨の濃淡を活かした流れるような線で描かれている。

鵜匠(うしょう)の表情が穏やかで、なんだかぬくもりがあって、見ていたら思わず「にたぁ」とほほ笑んでしまった。

だって、以前に根津美術館で観た《燕子花図屏風》とは雰囲気がまるで違って、「光琳って、こんな優しい作品も描けるのだなぁ」と、すっかり見惚れてしまったからだ。

Gallery2

《十二ヶ月風俗図巻》の上巻。前期展示では、一月から六月までが展示されていた。

江戸時代の一年を、人々の暮らしとともにたどることができる絵巻。着物の柄や色彩が本当に素敵で、髪形や小物まで細かく描かれている。見ているだけで当時の暮らしが想像できて、とても面白い。
きっと、時代劇などの参考にもなっているのだろうなぁと想像する。

ただ、庶民の暮らしを描いた作品といいながらも、着物や催事の様子はどれも華やかで、どこか裕福な印象を受ける。

どうやら菱川師宣の作品は、庶民の貧しい日常ではなく、元禄期の町人たちが着物のおしゃれや芝居、遊興などを全力で楽しむ「文化」を描いたもののようだ。

だからこそ、この絵巻はゆっくり時間をかけて見たかった。

しかし……できなかった。

写真をご覧の通り、そんなに混んではいなかった。

最初は離れていた私の右手側にいた方が、だんだん近づいて来るのが、右目の端で見える。気づけば、右足を踏まれるのではないかと思うほどの距離感だ。

ゆっくり見たいのだけど、私も焦る。
私が一歩左へずれると、その方も一歩左へ。

混んでいれば「あるある」なのだが、途中から見知らぬ人と二人三脚状態だ。

せっかく見に来た《十二ヶ月風俗図巻》は、作品に集中できずじまい。覚えているような、覚えていないような……。(泣)

Gallery3

一番広い展示室の奥に、いよいよ《歌舞伎図屏風》が展示されている。

六曲一双の大きな屏風ということもあり、最初に見た《四条河原遊楽図屏風》よりも、一人ひとりの姿が見やすい。ガラスケース越しではあるものの、比較的近い距離で展示されているため、細部までじっくり見渡すことができた。

この作品の見どころは、江戸時代初期の最高位の芝居小屋「中村座」を舞台に、歌舞伎の演者や観客の様子が生き生きと描かれているところ。

画面右側(右隻)には芝居小屋の入口や華やかな舞台、それを楽しむ客席が描かれているのだが、観客が自由すぎて微笑ましい。

左側(左隻)には、普段は見られない楽屋。顔を洗ったり、髪を結い直してもらったり、着替えたりと、せわしい舞台裏の様子がうかがえる。また、芝居茶屋で踊ったり、庭で花見を楽しんだりと、舞台の外まで賑わいが広がっていた。

こちらでは、周りの人とも暗黙の了解で場所を入れ替わりながら鑑賞できた。おかげで、思う存分《歌舞伎図屏風》を堪能することができた。

《見返り美人図》の何が違う?

Gallery4では、英一蝶(はなぶさいっちょう)、宮川長春(みやがわちょうしゅん)、鈴木其一(すずききいつ)の作品が並ぶ。

どの作品も、髪型も、立ち姿も、着物の柄や色彩も、どれをとっても綺麗で品格がある。なのに、どうしてあの《見返り美人図》は、それほど秀逸なのか。

Gallery4に並ぶ作品をしっかり目に焼き付けてから、もう一度Gallery1の《見返り美人図》の前に立った。

他の作品と比べても、着物の柄がひときわ豪華というわけではない。私には、色彩や塗り方が特別派手に見えるわけでもなかった。

けれど、横顔の表情、振袖の流れ、帯の締め方、裾の曲線、髪の結い方まで、どれも柔らかく自然で、少しも仰々しさがない。

私の表現が合っているのか分からないのだが、厚みというのか、立体感というのか、たゆみというのか、動きというのか……。

うまく言葉にできないのだけれど、改めて師宣の美人画を見ると、「やっぱり上手いなぁ」と思ってしまう。

「歩きながらふっと振り返る」。その一瞬。

「描こう、描こう」という力みがない。ずっと見ていられる。

これが、「引き算の美」ということなのだろうか。

今回の展覧会では、まるで上から町を眺めているように、江戸時代の人々の暮らしや催事、芝居や遊びの様子をあちこちに見つけることができ、本当に楽しかった。

歳を重ねてきたからだろうか。それとも日本人だからだろうか。最近、日本の文化に触れるたびに、喜んでいる自分がいる。それがなんだか嬉しい。不思議ねぇ。

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