日いづる処の美の日誌

光梅|美しいものを慈しむくらしの記録

坂東玉三郎 特別公演|新橋演舞場で一人観劇、阿古屋と夢二の世界に心震えた【後編】

一人で歌舞伎を観に行くのは、少し敷居が高いと感じるかもしれません。後編では、『坂東玉三郎特別公演』後半の舞台と、歌舞伎初心者の私が触れた、玉三郎丈の芸の深さを綴ります。

前編では、新橋演舞場への道のりと、玉三郎丈の口上までを綴りました。



その前に。

私は還暦まで、あと少し。

けれど、これまで歌舞伎に触れてきた回数は、両手で数えられるほどしかない。

ただ——

小学3~4年生の頃から、玉三郎丈は、私にとって特別だった。

その美しさに心を奪われ、
歌舞伎は、なんて優美なのだろう。
和の文化は、なんと尊いのだろう。

ただ、惹かれるままに観ていた。

けれど、
その長い憧れに比べれば、
私の知ることは、まだわずか。

歌舞伎の歴史も背景も、これから少しずつ、映像を観たり、本を読んだりしながら、ゆっくりと深めていきたい。

——

口上と、
絢爛豪華な衣裳の余韻を
胸に残しながら、
次の演目へ。

それは、
玉三郎丈による『壇浦兜軍記』。

長唄二名、
三味線二名。
そして竹本による語り。
その音色とともに描かれる、
遊女・阿古屋。

恋人の行方を隠していると疑われ、
その潔白の証として、
琴、三味線、胡弓を奏でる。

もし心に偽りあらば、その音は乱れる。

けれど──

響き渡る調べは、一点の曇りもなく、静かに凛として、阿古屋の誠を映し出す。

言葉ではなく、音に心をのせて。

その一音一音が、
疑いを払い、
己が真を証明していく。

音が、立ち上がる。

張り詰めた緊張のなか、演奏陣との息は、ぴたりと重なっていた。

なかでも、

演奏が難しいという胡弓。

その音色を響かせ、
その技を魅せる。

気高く、美しい。

けれど、
恋人を、命懸けで守る。

その想いまでもが、
音の深みに宿る。

胸が熱くなる。

思わず、
涙がこぼれそうになった。

——その余韻のまま、もう一つの“阿古屋”へ。

今回の特別公演では、演奏のみの『三曲糸の調べ』でしたが、
玉三郎丈が豪華絢爛な衣裳をまとい、阿古屋としてドラマを生きながら、琴・三味線・胡弓を奏でる伝説の舞台があります。

それはシネマ歌舞伎として映像化された『阿古屋』です。

あの奇跡のような演奏を、もう一度じっくり堪能したい方は、映像という形でも触れることができます。

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玉三郎丈による三曲の演奏を、自宅でも映像で楽しむことができます。Amazon Prime Videoでレンタル視聴できます。

舞台で感じた余韻を、自宅でもう一度味わいたい方へ。

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舞台の余韻を、繰り返し味わいたい方へ。

——

さて、
これから三十分の休憩だ。

入場時に買ったお弁当を、
座席でいただく。

少し前から、
あちこちで
小さく鳴る音がしていた。
グルグルグル…。

もう少しで
こちらも鳴りそうだった。

よく持ち堪えてくれたと、
胃袋にそっと礼を言う。

会場の中には
お食事処や売店がある。
お腹が空いても、心配はいらない。

ただ、
三十分の休憩は
意外と短い。

少しばかり、品はないが、
よく噛んで、急いで食べる。

食べ終えると、
二階のロビーへ。

大きなゴミ箱が用意されている。
そのまま捨てられてるのは、
ありがたい。

そして、
お化粧室は長蛇の列。
やはり早めに動くのがいい。

時間があれば、
場内を歩いてみてほしい。
情緒あふれる展示に、出会える。


お土産に、
お菓子やフォトカード、
写真集などが並ぶ。

それらは、
舞台で受け取った感動を
そっと手元に残してくれる。

劇場を後にしても
その余韻はほんのりと
続いていく。

再び、客席へ。

幕が上がるのを待つ。

後半は、
竹久夢二にまつわる
二つの演目が続く。

まずは、
新たに撮り下ろされた映像作品。

夢二の半生。
そして、
夢二が愛した三人の女性たち。

そのすべてを、
玉三郎丈が演じ分け、
語りとともに進んでいく。

観る前は、
映像では、
どこか物足りないのでは——
そんな思いもあった。

けれど、
そんな心配は、すぐに消えた。

玉三郎丈が演じる、
大正ロマンの女性たち。

髪型、
着物の柄、
そのひとつひとつが、
大きなスクリーンいっぱいに広がる。

目の前に立ち現れるその世界は、思いのほか見応えがあった。

そして、
最後の演目
『長崎十二景』へ。

スクリーンはそのまま、大正時代の映像が流れる。

異国情緒あふれる長崎を背景に、夢二好みの女性たちを描いた十二枚の絵が映し出されていく。

映像を観ているのに徐々に映像から溶けるように、三次元の舞台へ。

なんとも心憎い演出だ。

十二枚の絵画から
インスピレーションを得た、
台詞のない舞踏劇。

まさに、
玉様の真骨頂。

台詞はなくとも、
その後ろ姿ひとつで、

恋い焦がれた人に会えた喜び。
恥じらい。
嫉妬。
寂しさ。

女の情念が、
切ないほどに伝わってくる。

台詞なし。

だからこそ、
観る人それぞれに、
さまざまな受け取り方があっていい。

けれど、私はイヤホンガイドを聴いていた。

そのお陰で、演目の背景や描写を知ることができ、深く味わうための心強い支えとなった。

歌舞伎や舞台にまだ詳しくなくても、その世界を深く味わえる。

竹久夢二が描いた、どうにもならない男と女の恋模様。
その世界が、舞台隅々に広がっていた。

席を立つ頃には、
まさに——
「玉様、三昧」

大満足の、三時間だった。

一人の観劇でも、歌舞伎に詳しくなくても、玉三郎丈が作り出す美しい世界に、ただ身をゆだねればいい。

新橋演舞場で過ごす時間は、初めての方にもぜひおすすめしたい。

贅沢で
優雅なひとときを。
坂東玉三郎 【公式サイト】